昔々、「家を建てる」といっても、工法は選ぶほど無く、どちらかと言うと大工さん任せでした。
それは当時、ハウスメーカーのような存在が無く、営業、設計、施工のほとんどを工務店(大工)さんが、やっていたからです。
大工さんは、親方から技術を学び、それを守り弟子へと伝える、いわば「伝統工芸」のような仕事です。
これに対して、ハウスメーカーは、伝統を守るだけではなく、他に何か良い工法は無いかと、新規開拓をしました。
会社組織が、競争に勝つために、何か新しいものを見つけ、差別化を図るのは当然の流れで、結果として外国から新しい工法を輸入したり、独自で新しい工法を作り出したりして、今では、いくつもの工法を選べるようになりました。
そして、今の建築屋さんは、いずれかの工法を「主」として建築するので、「建築屋さんを選ぶ」という事は、同時に「工法を選ぶ」という事でもあります。
工法は主に7種類、
・木造在来(軸組)工法
・ツーバイフォー工法
・パネル工法
・ユニット工法
・鉄骨工法
・RC(鉄筋コンクリート)工法
・丸太組工法 があります。
さらに、これらの工法にアレンジを加え、独自の「工法名」を付け差別化を図る建築屋さんもありますが、主にこの7種類が基本になっています。
住宅展示場を見学に行くと、明らかに工法が違うと分かる建物(RC工法・丸太組工法など)と、工法の違いなのか、デザインの違いなのか分からない建物があります。
しかし建築屋さんは、工法を秘密にしている訳ではないので、聞けば親切に説明してもらえるはずです。
試しに、色々な建築屋さんに「どの工法が一番良いですか?」と質問してみて下さい。
おそらく、「自分たちの工法が一番」と答えるはずです。
私たち「木の森」も、同じ事を聞かれれば、「木造在来工法が一番です」と自信を持って答えます。
どの会社も考えがあって、その工法を選んでいますから、当然の事だと思います。
とは言っても、「どの工法が一番良いか」知りたくありませんか?
結論を先に言えば、「一番」と一言で言える工法はなく、それぞれに特徴(長所・短所)があり、各社その特徴を生かし、それぞれの建物を造っているはずです。
ですから、「どの工法が一番か」ではなく、「どの工法が、お客様の求める建物に適しているか」を見極める事が大切です。
そのためには、まず「それぞれの工法を知ること」が必要なので、7種類の工法を簡単に説明いたします。
【木造在来工法】
日本の昔ながらの建築工法で、横方向の土台や梁・桁材と縦方向の柱材を加工(仕口・枘・継手等)して組み合わせ、斜材(筋交い・火打梁)で補強します。
最近では、従来の工法に改良を加え、断熱・構造面が強化されています。
【ツーバイフォー工法】
北米やカナダから輸入された工法で、2インチ×4インチ等の規格木材を組み合わせて、柱や梁となる材料を作り、釘や金物でつなぐ工法です。
そして、在来工法の筋交い・火打梁の代わりに、壁(縦方向)や床(横方向)の合成を構造用合板を張って取るため、耐震性や気密・断熱性能に優れていると言われています。
【パネル工法】
建物の床や壁をあらかじめ工場でパネル化して、現場での作業の効率化を図った工法です。
パネル自体の構造は、ツーバイフォーが多いように思いますが、中にはRCパネルを使った工法もあります。
【ユニット工法】
パネル工法をさらに効率化し、建物をいくつかのユニット(箱)に分け工場生産し、現場でその箱を積み重ねる工法です。
工場生産は、天候に左右される事が無く、機械化・自動化された生産ラインで作られるユニットは品質が一定で、着工してから完成までの工期が短いのも特徴です。
【鉄骨工法】
この工法は、在来工法と似ていて、使う構造材が木材から軽量鉄骨に変わったと考えていただければ解りやすいと思います。
構造材に鉄骨を使うこの工法は、木材に比べ材料の収縮やねじれによる「狂い」が少ないのが特徴ですが、寒冷地においては、構造躯体の結露に注意が必要で、リフォーム等で構造変更する際にも注意が必要です。
【RC工法】
この工法の最大の特徴は、耐震性と耐火性など、災害に非常に強い事です。
主にマンションや公共施設などの大型の建築物に採用されることが多く、住宅としては少数派です。
これたと似た工法で、コンクリートブロックを積み上げて造る「ブロッ工法」もあります。
※レンガを積み上げた建物は、レンガ自体は構造躯体ではなく、外壁材として分類されます。
【丸太組工法】
ログハウスと言った方が、解りやすいと思います。
山小屋をイメージするこの建物は、丸太に切り込みを入れ組み上げる、ナチュラルでワイルドが特徴の工法です。
ログハウスが好きな方にとっては、他の工法との比較は、あり得ないかもしれません。
以上、7つの工法をさらっと書きましたが、「木造在来工法」をお勧めしている我々が、他の工法を詳しく書いて「悪口」になっても困りますから、さらに詳しく知りたい方は、それぞれの建築屋さんに聞いてみてください。
ここでは、住宅を建てるにも建築屋さんばかりではなく、「工法も色々ある」という事をご確認ください。
さて、それぞれ特徴がある工法ではありますが、そもそも建築屋さんは、どのような思いで、それぞれの工法を採用しているのでしょうか。
そこには、「お客様のため」と「会社の都合」の二つの考え方があると思います。
「お客様のため」は、各社それぞれの思いがあるでしょう。
そして、「会社の都合」にも、それぞれありますが、その中の一つに建築業界全体が抱える問題があります。
それは、職人さんの人手不足です。
時代は、私が学生時代の30年近く前までさかのぼり、その頃、世の中は「バブル景気」に沸き立っていました。
その当時も、「人手不足」が問題になっていましたが、現在の状況とは違って、仕事が多すぎて人手が足りない状態でした。
そして、この人手不足を解消するために、「工期短縮型」の工法が積極的に取り入れられるよになったのも、この時代からです。
「沢山の仕事を限られた人数でこなす」ための工期の短縮です。
工期短縮型の考え方の基本は、現場の職人さんの仕事を、「職人さんしか出来ない仕事」「工場で出来る仕事」「その他(職人さん以外でも出来る)の仕事」に分業し効率化することでした。
このことにより、建材にも変化が現れ、「既製品」と呼ばれる現場で取り付けるだけの完成品が姿を現しました。
その代表が室内建具で、それまで大工さんが、枠を加工し取り付け、塗装屋さんが色を塗り、建具屋さんが寸法を測り制作・取り付けていたものが、枠と建具がセットの完成品になり、現場で取り付けるだけになりました。
そして、私が社会人になる直前、「バブル経済」は崩壊し、住宅には「コストダウン」が求められるようになりました。
豪華な建材や設備機器は影を潜め、建築費の多くを占める人件費の削減と、さらなる工期の短縮が進められました。
その結果、技量を必要とする職人さんの仕事が減り、若い職人さんが育たず、現在の「人手不足」を招きました。
現場での作業を減らし、工場での作業を増やす事は、人手不足の解消やコストダウンの他にも、職人さんの「腕(技量)」に左右されることなく均一の商品が作れ、大量生産できるという特徴もあり、さらに現場での工期短縮は、ご近所に迷惑をかける期間を減らし、建築屋さんの資金回収も早めます。
こうやって見ると、人手と技量をあまり必要としない「工期短縮型」は、今の時代に合った、最も良い工法に思えますが、本当にそうなのでしょうか。
私たち「木の森」は、そこに長く住むお客様の事を考えた結果、「工期短縮型」の工法とは逆の、職人さんの「腕」に頼り、ある程度工期が必要な「木造在来工法」を採用し、さらに「手間をかける家造り」をしています。
ここからは、我々「木の森」が採用している「木造在来工法」についてもう少し詳しく、ご説明させていだだきます。
木造在来工法は、
・歴史が古く、日本の気候・風土に適した伝統工法で、言い換えれば、実績がある工法です。
※数百年前に建てられ、現存する神社仏閣などは、そのほとんどが木造建築で、「神社建築」と呼ばれる様式の基本となる考え方は、在来工法とほぼ同じです。
・木造建築は、鉄骨やRC工法に比べて、木材の収縮等による狂いが大きいと言われていましたが、現在では、乾燥材や構造用集成材を使う事により、その狂いは、かなり少なくなり、さらに、コンピューター制御された機械によるプレカットの採用で、加工精度が格段に向上し、さらに狂い(誤差)が少なくなっています。
・ツーバイフォー工法が輸入された当時、在来工法は耐震性や気密・断熱性が劣ると言われていましたが、現在では、そのツーバイフォー工法の良い部分を取り入れ、「筋交い」に変わり、構造用合板を張るなどして、同等の耐震性や断熱・気密性が得られています。
・土台、柱、梁と、現場で順番に組み立てられるこの工法は、最終的に見えなくなってしまう「構造躯体」の細部まで、お客様ご自身で確認でき、安心です。
まだまだ、色々な特徴がありますが、プランやデザイン・断熱工法と自由度が高いこの工法は、注文住宅にも適しており、生活環境の変化によるリフォームにも、柔軟に対応できる工法です。
そして、工期がある程度必要で手間がかかるこの工法は、時代遅れとも思われがちですが、お客様にとって、一生に一度の大切な家が出来上がっていく様をじっくり見ることができ、完成して時が経っても、建築当時(建築中)の事が、「思い出」として、深く心に残ることと思います。
「手間がかかって面倒」ではなく、「手間をかけて良くする」この工法は、造っている我々も楽しい工法です。
少し話は変わりますが、住宅と家具は、関連が深く「切っても切り離せない関係」で、住宅が建たなければ、家具も売れません。
一昔前は、新築時に「一生に一度の物だから」と、職人さん手作りのいい家具を揃えることが多々ありましたが、現在の家具の主流は、「外国で作った家具のキットを、自分で組み立て、壊れたら買い替える」です。
家具業界でも、住宅業界同様「ローコスト」が主流です。
良い材料を使って、じっくりと手間をかけて造る家具は、触っても使っても良いのですが・・・。
そんなことを言っている私の家の食卓テーブルは、結婚当時に買ったローコストテーブルで、「いつかは、旭川のあの家具屋さんの・・・」と夢を見つつ、まだ実現していません。
「理想と現実」、このギャップにいつも悩まされるのですが、「買い替え」が簡単にできない住宅を計画される際は、見た目の良さと、価格の安さだけではなく、その物の本質を見る事が大切です。
時間と手間をかければ、コストは上がります。
しかし、上がったコスト以上に満足度が得られる事も多々あります。
逆に、手抜きによるコストダウンは、下がったコスト以上に不満が残ります。
本当の意味で無駄をなくした「ローコスト」と、「やるべき事をやらない・使うべきものを使わない」の「ローコスト(手抜き)」は違います。
さらに、自分に合わない工法の選択は、たとえ品質が良い物であっても不満に思う事もあります。
今回は、私たち「木の森」がお勧めする「木造在来工法」に少し偏った話になったかも知れませんが、それぞれの工法に、良さがあると思います。
ぜひ、色々な建築屋さんと、工法についてもじっくり話し合ってみてください。
建築屋さんに納得させられるのではなく、ご自分で納得するまで、じっくり時間をかける事が、本質を見抜く第一歩です。