22日午前、当別町の弁華別小学校で、札響(札幌交響楽団)のバイオリニスト、大平まゆみさんのコンサートがあり、行ってきました。
私が、このコンサートを知ったのが、前日の道新(北海道新聞)の記事で、22日は、午後から仕事の予定が入っていたものの、午前中は空いていたので、妻と2人で行くことにしました。
弁華別小学校は、以前の ブログ にも書きましたが、現役の木造校舎では、道内最古の2階建ての建物で、今年度の卒業生を最後に、閉校が決まっています。
閉校の主な理由は、児童数の減少と、校舎の耐震性・耐火性能の問題だそうです。
そして、気になるのが、「閉校後、この校舎をどうするのか」です。
一説には、「解体される」という話もあるそうですが、その一方で「どうにかして、残したい」という意見が多いのも事実で、現段階では、「閉校後の校舎の使い道を模索している」といった、ところでしょう。
そして当別町では、以前から、この校舎を利用したイベントを数多く主催していて、1年くらい前に開催された、夜の校舎に映像を映し出す「プロジェクトマッピング」は、当時、話題になり、記憶に新しいところです。
そして、今回のコンサートも、当別町の主催で、午前中に4回、それぞれ20分ずつの演奏です。
コンサート当日は、「遅れてはいけない」と鼻息荒く、8時前に自宅を出発したものの、始まる1時間前には到着し、少し早すぎるような気もしましたが、古い木造校舎をぐるっと見て回り、早々に会場である体育館に入りました。
会場には、関係者の方以外は、まだ誰も来ておらず、とりあえず一番前の席に座り、コンサートが始まるまでの1時間、何をするでもなく、ただただ古い木造体育館を眺めていました。
私は以前から、この弁華別小学校の木造校舎が大好きで、事あるごとに、ちょくちょく見に来ていました。
とは言っても、「不審者」に間違われても困るので、敷地の外から眺めて、写真を撮る程度でしたが。
そして私は、体育館が特にお気に入りで、「なぜか」は自分でもよく分からないのですが、あえて言うとすれば、「造りが違う」というのが理由でしょうか。
木造校舎の多くは、建っている場所(風景)によっては、趣(おもむき)が変わるものの、「造り」に関して言えば、大きさ(規模)の違いこそあれ、大差はあまりありません。
これに対し体育館は、校舎に比べれば小さく、大抵、隅っこの方にあり、脇役的な存在ですが、その造りは様々で、個性的なものが多々あります。
体育館は、無いと校舎が引き立たず、居ないと困る「名脇役」で、そんな存在に心惹かれるのかも知れません。
そして、この度、コンサートという事で、堂々と中に入ることができ、木造体育館を十分堪能し、待ち時間の1時間を退屈することなく、過ごすことが出来ました。
さらに、早く着いたお陰で、コンサートのリハーサルの様子も見ることができ、正に「早起きは、三文の徳」でした。
ちなみに、体育館で一番好きなところは、窓です。
何もない、ガランとした大きな空間に、大きな窓から差し込む夏の陽の光は、どこか涼しげで、木の床や壁をやさしく照らし、良い雰囲気です。
そして、鉄の格子が窓の内側に付いているのも特徴で、ご存知の事と思いますが、これは、ボール等がガラスにぶつかって、割れるのを防ぐためです。
よく見ると、この鉄の格子にさえも、それぞれ個性があります。
こんな話をしていると、いくら時間があっても足りないのですが、もう1つ。
私が、体育館でどうしても譲れないのが、時計です。
あの円形の時計です。
最近は、縁が金属製のものが多いように見受けられますが、出来れば木製で黒い縁の時計が理想です。
四角形やデジタルの時計は、木造体育館には似合わず、近代的な体育館のみに掛けていただきたいものです。
実は、我家の車庫にも、頂き物ですが、木製の円形の時計が掛けてあります。
時計の真ん中に、「ネジハ金曜日」と書かれた紙が貼られていて、それは、いかにも事務的で、以前、学校か工場のような所で使われていたことが、容易に想像できます。
このネジとは、「ぜんまいばね」のことで、このことからも分かるように、電池式ではなく、振り子式の時計です。
柱時計とは違い、外から振り子は見えませんが、時計本体のなかに、小さな振り子があって、「カッコン・カッコン」と、味わい深い音を立て、動きます。
そして、セットをすれば、30分と1時間毎に、「ボーン ボーン」と時を知らせてくれます。
ただし、夜に車庫で作業をしているときの、「ボーン」は、少し怖いですが。
さて、9時半から始まる、コンサートですが、開始直前には、満席になり、それどころか立ち見や、それでも足りなくて、急きょ椅子席の前に「ござ」を敷いての特別席まで用意されました。
今回は、バイオリニストの大平まゆみさんと共に、今井 徳子さんがピアノ伴奏として、参加されています。
このお二人は、「今回は」と限ったものではなく、病院や施設などでの演奏会やチャリティーコンサートなどを長い間に渡って、続けられていて、「敷居が高い」と思われているクラッシックをより身近に感じられるようにと、活動されているお二人でもあります。
ですから、息もぴったりで、開演前に見たリハーサルでも、言葉での打合せではなく、楽器での音合わせを少ししただけで、お互いの呼吸を確認できている様子でした。
今井さんのピアノで始まったコンサートは、1曲目が、エルガーの「愛のあいさつ」で、バイオリンの大平まゆみさんは、席の後ろから演奏しながらの、登場でした。
体育館で行われる演奏会は、舞台と客席の区分けがなく、ステージと同じ目線で聴けるのが魅力です。
そして、後ろからの登場は、バイオリンの音色をより近くで、聴くための演出でもあり、「音楽に慣れ親しんでもらいたい」という優しい心遣いが、直接伝わってきた瞬間でもありました。
その音色は、あの小さなバイオリンから出ているとは、到底思えないほどの、繊細で力強く、低い音から高い音、小さな音から大きな音まで、1つ1つがきれいに耳に届き、大きなコンサートホールでオーケストラを聴くのとは違った味わいがありました。
そして今回、小さな会場だからこそ気づいたことが1つ、演奏の最中にもバイオリンのチューニングを直していることでした。
全4曲、約20分間の演奏でも、音が若干狂うのかも知れませんが、聞いている我々はその違いなど、分かるはずもなく、しかしプロは、演奏の最中にそれに気づき、さらに修正してしまうとは、音色もさることながら、その徹底したこだわりにも驚きました。
私は、物を造ることが好きで、職人さんが造っている姿を見るのも大好きです。
バイオリンを上手に演奏する事はもちろん、その演奏中にチューニングする姿は、物を造り出す
「職人さん」そのものでした。
今まで、「音楽は聴いて記憶に残すもの」と思っていましたが、この職人さんたちが奏でる音楽は、しっかりと形として心に刻まれした。
その後、ドヴォルザークの「ユーモレスク」など、計4曲を披露していただき、20分間の演奏は、あっという間に終わりました。
しかし不思議なことに、あっという間の20分は、短いとは感じず、満ち足りた気持ちでいっぱいでした。
木造体育館でコンサート。
決して音響設備が整っているとはいえませんが、そこには、古い建物とバイオリンが絶妙に調和した、理屈抜きの「心地よさ」がありました。
コンサートは、全部で4回、聴こうと思えば、あと3回聴く事も出来ましたが、1回目に入れず、外で待っている方々もいましたし、この1回(20分)で、充分満足できましたので、すっきりとした気持ちで、体育館を後にしました。
午後からの仕事まで、まだ時間があったので、コンサートの余韻を引きずりながら、少し遠回りをして帰ることにしました。