《 家の使い勝手を考える 4回目 》
今回は、脱衣室・浴室です。
昔、お風呂と言えば「造り風呂」ばかりでしたが、「ユニットバス」の登場以来、コストや工期、メンテナンス性の点から、今では、そのほとんどがユニットバスになっています。
また、ひと昔前までは、お風呂のリフォームと言えば、造り風呂をユニットバスに変える工事がほとんどでしたが、最近では古いユニットバスを新しいユニットバスに交換する工事も増えてます。
そして、造り風呂は、解体してみると大抵、土台や柱の下部が腐っていて、交換が必要ですが、ユニットバスは解体しても、そのような事はほとんど無く、防水性能の高さを実感します。ですから最近、新築でお風呂と言えば、特別な拘わりがない限り、ユニットバスをお勧めしています。また、最近のユニットバスは多種多様なオプションが用意されていて、ある程度の拘りにも対応できるようになりました。
では、その「拘わり」について、少し考えてみたいと思います。
ユニットバスには、主に「デザイン面」と「機能面」のオプションがあり、デザインは、いわゆる「見た目」で、機能は清掃性を含む「使い勝手」です。そして、これらのオプションを選択すれば、ほとんどの場合、コストも上がります。お風呂本来の目的からすれば、デザインや機能も標準的なもので充分で、あとは、「どれだけ贅沢するか(拘るか)」という事です。
「標準」と「贅沢」、その尺度は人それぞれ違うと思いますが、ここで言う「標準」は、カタログ上の標準仕様で、「贅沢」は、オプションとして、お考えください。
「オプションをどうするか」は、「お風呂に何を求めるか」によって違います。先程も書いたように、お風呂本来の目的である、「体を洗う」という事だけを求めるのであれば、標準仕様で充分でしょうし、それ以外に、「ゆったりした時間を過ごせる空間」を求めるのであれば、雰囲気も大切ですから、シャワー1つにも拘わりたいもので、時にはテレビやスピーカー等のオプションも欲しくなります。また、「浴槽の自動お湯張り」や「追炊き」など、ユニットバスのオプション以外にも、便利な機能が色々あります。
さて、この拘わりをもう少し深く考えてみると、「せっかくだから」という、一時的な感情である場合もあります。もし「拘わり」ではなく、「感情」だとしたら、時間の経過と共に「冷める」ことも多々あります。
そして、オプションの中には「ひとクセ」ある物もあり、例えば、壁面を豪華に見せるタイルのオプションは、清掃面でパネル状のものより手間がかかります。
また、そのユニットバス専用に作られた豪華な水栓金具などの部品は、一体化したデザインで見栄えは良いのですが、10年、20年後に交換する際、同じ物がなければ、代用品を使う事になりますが、デザインが特殊なだけに「違和感なく」とは、なかなかいきません。
ここで考えておく必要があるのが、「長く拘れる物か」です。
もし長く拘れるのであれば、特殊なデザインの部品などは、在庫があるうちに最低1セットずつストックしておけば、代用品の心配をする必要はありません。また、部品が無くなる頃には、全体的に古くなり、汚れも取れづらくなるので、この時点でユニットバス自体の交換を考えるのも1つです。
最近多くなってきた、古いユニットバスから新しいユニットバスへの交換の理由の1にこれがあります。
ここでもう1つ、お風呂の断熱の話です。
今の建物は、昔に比べ格段に断熱性能が上がっていて、その中にあるユニットですから、お風呂も当然、暖かくなっています。さらに最近では、ユニットバス自体の断熱性能も上がっていますから、尚更です。
そこで注目したいのが、「窓」です。
結論から言えば、ユニットバスに窓を付けることは、あまりお勧めしていません。外の光を入れ、風を通し、健康的なイメージではありますが、同時に、せっかくの断熱性能が落ちてしまいます。これを言えば、他の部屋も同じ事なのですが、居間などの居室に窓を付けるのとは、別問題としてお考えください。
さて、お風呂に窓を付ける目的は主に2つ、採光(浴室内に光を入れる)と換気です。
まず採光は、別荘地のように「景色を見ながら」という場合は別として、通常は隣に家がありますから、中が見えないように、型ガラスにして光のみを入れることが、ほとんどです。しかしお風呂は、夕方から夜にかけて入る方が多く、昼間の光の恩恵を受けることは少なく、逆に型ガラスとは言え、立地条件によっては、外からの視線が気になる場合もあります。
次に換気です。ユニットバスには、標準的に換気扇が付いているので、問題はありませんが、「より効率的に」と考えれば、窓を開けるのも有効です。
ただ、窓を開けるときには、虫の侵入を防ぐために、網戸を閉めると思います。その網戸ですが、ロール式のものがほとんどで、収納している時には、湿気がこもりやすく、それがカビの発生の原因にもなります。
ですから、窓を付けることを「絶対にダメ」とは言いませんが、コストアップや、断熱性能の低下、サッシの結露、網戸のカビ等々の問題を考えると、「なんとなく窓があった方が ・ ・ ・ 」という程度の理由であれば、やはりお勧めはできません。
また、窓を付けるとなれば、浴室を外壁に面して配置しなければなりませんが、窓が無ければ、その必要もなく、プラン的にも自由度が広がります。
今まで、「お風呂には、窓があって当たり前」と考えていた方も、本当に必要か、この機会に考えてみては、いかがでしょうか。
次に、お風呂と切っても切り離せない関係の脱衣室。
世の中、斬新なプランの建物が多々ありますが、お風呂と脱衣室は、ほぼ間違えなく隣り合っていると思います。しかし、脱衣室の機能としては、それぞれです。単純に、「脱衣室」という文字の意味からすれば、「服を脱ぐ部屋」なのですが、一般的には、洗面や洗濯などの機能も一緒にすることが多くあります。これは、「水回り」を1つにまとめにすることで、限られたスペースを有効利用し、コストダウンにもなるからです。
ただ、これも「必ず」という事ではなく、例えば、家族が多いご家庭では、朝、晩の洗面の時間帯と、お風呂の時間帯が重なれば困る事もあり、そんな時はあえて、脱衣室と洗面所を分けるのも有効です。
また脱衣室には、給湯・暖房ボイラー等を設置する事も多く、これらの設置位置や、出入口との位置関係もしっかり考えておかないと、効率が悪くて、使い辛いスペースになってしまいます。
それから、浴室と隣り合う脱衣室は、十分な湿気対策も必要で、時には、洗濯物を干すスペースにもなりますから、換気扇を付けるなどして、積極的な換気をすると良いでしょう。さらに、湿度センサー付きの換気扇にして、スイッチを入れておけば、湿度によって勝手に作動してくれるので、湿度変化の大きい脱衣室にはピッタリです。
さて今回は、どちらかと言うと「造り風呂」に否定的な内容となりましたが、必ずしもそうでは無いので、最後に造り風呂について少し書きたいと思います。
造り風呂のリフォームでは、解体してみると、躯体が腐っている事がほとんどで、どうしても「造り風呂=腐る」というイメージになってしまいますが、「造り風呂だから」という事ではありません。
少し前の話になりますが、中央区のお客様に頼まれ、造り風呂の点検とメンテナンスをしました。
このお宅は、築40年以上の和風木造住宅で、浴室床には暖房が入っていて、使っていないときは常に乾燥している状態です。建物全体の造りも、しっかりしていて、建築当時の様子を伺うと、「東北の宮大工さんをお願いして造った」との事でした。浴室は表面上、特に問題なく、さらに床下に潜って点検しても、土台や柱の下部が腐っている様子は無く、今後もまだまだ大丈夫そうでした。
こうしたケースは珍しいのですが、躯体が木造の造り風呂も、しっかりと造れば大丈夫という証です。ただ、造り風呂の大半が腐っていたように、実際には、「しっかりと造る難しさ」があるようです。
では、しっかりと造るのが難しいのは、なぜでしょうか。
私なりに分析してみると、そのほとんどを現場施工する造り風呂は、「環境に左右されやすい」ということが、ポイントだと思います。
この環境とは、工期や予算、それに技術です。
もともと技術が無いのは論外として、お風呂を造り上げるには、いくつもの工程があり、ある程度の日数と予算が必要で、そのどちらが不足しても良い物は出来ません。逆に言えば、工期と予算が無ければ、「それなりにやる」という事も可能で、いわゆる「手抜き」です。これは、造り風呂に限らず、現場作業で造るものは、ユニットバスのように出来上がってくる商品とは違い、造りながら良くも悪くも調整できてしまう怖さがあるのです。
また、需要が少なくなった現在では、造り風呂を仕上られる建築屋さんや、職人さんが減っているのも現実です。
ここで以前、木の森で手掛けた造り風呂製作の様子を紹介します。
この時は、木造とRC造のハイブリット工法で造りました。
まず、基礎工事と一緒に、浴室の躯体もRC構造で造ります。
浴室は外断熱工法とし、型枠取付時に一緒に断熱材もセットしています。
その後、木造の躯体を組立て、大工さんの作業をある程度まで進め、その間は躯体コンクリートの養生期間とします。
その後は防水処理をして、下地を造り、浴槽のセット、床暖房のパイピング、内装タイル等の下地・仕上げ、そして設備機器を付けて完成です。
各工程の間には、養生期間が必要で、ユニットバスであれば、1日で完成するところ、造り風呂では、最低3週間は必要です。
これを見ていただくと、造り風呂には環境(工期と予算)が必要という事が分かると思います。
この環境を省けば、必要な工程を省くような結果になり、「造り風呂=腐る」となる訳です。
という事で、ユニットバスも造り風呂も、どちらか一方が良いと言う事ではなく、それぞれの良さがあるのですが、コストと製品の安定性を考えると、ユニットバスが一般的という事です。
造る側とすれば、手間がかかる難しい仕事も、楽しいものですが。
次回は、「トイレについて」です。